例えば、札幌駅の通勤帰りの人達が家路を急いで歩いている風景や、デパ地下で美味しいケーキを手に入れるためにたくさんの人が行列を作っている風景。そんな場所へ寝台式車イスで歩くのが大好きだ。要するに人ゴミと言われる所に身を置くことが、私の幸せな瞬間のひとつである。「私は施設じゃなく地域で生きているの!」とさけび出したくなるからだ。
幼い頃から病院や施設で暮らしてきた私は、淋しさや孤独に囲まれていた子供の頃の自分をそうやって心の中で抱きしめて「大丈夫よ、もうあなたは隔離された世界にいない」と今でも言ってあげたくなる時がある。さわがしく色々な人達が忙しく行き交う街は、私にとっては夢の庭のようだ。
もう何年も前、あるデパートの地下から地下街へあがる場所が階段だったため、スロープをつけてほしいと要望を車イスの仲間と上げたことがあった。
最初はろくに話も聞いてくれなかった企業の人が、何度も何度も私達が通い改善を求める中で、テーブルにつきこちらの話に耳を傾けるようになってくれた。「予算がない」と言っては苦笑いしていたが、2年、3年とあまりの私達のしつこさ(?)に「何とか予算をつけてもらえるように自分達も上司に掛け合ってみます」という言葉が彼らの口から聞かれるようになった。
そうして、話合いを続けた3年目にやっとスロープがついた。デパートの人達も私達も一緒になって手を取り合い、目を赤くして「おめでとう」と握手をしたあの日が忘れられない。そのスロープは車イスだけじゃなく、お年寄りもベビーカーも、いろんな人が笑顔で通る。
社会を自分達の声で夢の庭へと変える喜び。重い障害をもって生まれた私に、天が与えてくれたかけがえのない仕事だと思っている。
(佐藤きみよ)